If Nuclear Weapons Were to Be Used ...
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If Nuclear Weapons Were to Be Used ...

NHK

NHK covered an APLN-RECNA-Nautilus joint report titled “Humanitarian Impacts of Nuclear Weapons Use in Northeast Asia: Implications for Reducing Nuclear Risk.” Read the original article (in Japanese) here. You can also download the PDF file on the left to read the English translation.

8月9日、長崎に原爆が投下されてから78年となりました。
去年に続いて、ロシアによるウクライナ侵攻が続き、北朝鮮による核ミサイル開発が加速する中で迎える原爆の日となりました。
核兵器がもし使われたらどんなことになるのか、長崎大学などが示したシミュレーションを紹介しながら、今年の原爆の日が持つ意味について考えます。

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【世界で高まる核使用の脅威】

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いま、世界に存在する核弾頭の数は1万2520発と推定されています。
冷戦末期の1980年代半ば以降、40年近く減ってきましたが、いま、その削減は曲がり角になってきています。
作戦配備やそのために貯蔵されている「使える核弾頭の数」が増えてきているのです。
長崎大学核兵器廃絶研究センターによりますと、その数は9587発。
とりわけ増えているのがロシアです。プーチン大統領は折に触れ、核による威嚇を行ってきています。先月には隣国ベラルーシに、射程の比較的短い戦術核兵器の搬入を行ったと述べました。
また、中国は5年間で170発増やしたと推定されるほか、北朝鮮もいまや保有するのは40発とも言われています。
一方、アメリカやイギリス、フランスも核戦力を維持し、装備の近代化を進めているとされています。
核兵器を持つことで、相手の核兵器による攻撃を思いとどまらせる「核抑止」の考え方が根強く残っていて、廃絶への道は遠い状況です。

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【北東アジア対象に核使用時の被害シミュレーション】
こうした状況の中で、核兵器が日本の周辺で使われたらどんな被害が出るのか、それを知ることで核兵器が使用されるリスクを下げる提言につなげようと、長崎大学核兵器廃絶研究センターなどの国際プロジェクトチームは、各国の核戦略や国際情勢、物理学や医学などの科学的知見をもとに、この地域では初めてとなる詳細なシミュレーションを行いました。

5つのケースについて被害想定を出しましたが、特に懸念されるケースを紹介します。

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1つめは北朝鮮が韓国を狙って使用した後、アメリカが反撃するというケースです。
韓国軍が領域に入ったとして、北朝鮮が韓国の沿岸地域を狙って比較的小型の核兵器を使用、その後アメリカは、北朝鮮の核基地を狙って比較的小型の核兵器を2発使うとしています。韓国と北朝鮮で数か月間に1万1000人が亡くなり、放射線の影響で長期的にがんで亡くなる人は最大3万6000人になるとしています。
風向きによっては、放射性物質が日本まで届き、一般の人の年間の被ばく限度(1mSv)を超える量の放射線にさらされることもあるとしています。

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ウクライナ情勢を踏まえたケースも示されました。
ロシアのウクライナ侵攻で緊張が高まる中、アメリカが日本海に潜水艦や爆撃機を搭載した艦船を配備するのに対し、ロシアが在日米軍の基地や艦船を狙って大型の核兵器を合わせて5発使用するという想定です。
これに対し、アメリカは小型の核兵器3発でロシア東部の基地を攻撃するとしています。
日本とロシアなどで数か月間に、広島や長崎の犠牲者数を上回る29万人が亡くなり、長期的には最大8万5000人ががんになって亡くなるとしています。

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最も深刻とされるのは、台湾をめぐって米中の核戦争となるケースです。
中国の指導部が国民の意識をそらすために台湾の防衛施設を攻撃するのに対し、台湾がアメリカの支援を受けて反撃し、エスカレートするという想定です。
中国は通常兵器だけでは勝利できないと判断した場合、核戦略として掲げている「核の先制不使用」を破棄し、日本や韓国の米軍基地を威力の強い核兵器で攻撃。アメリカは中国内陸部の核ミサイル基地などを狙い、小型の核兵器で反撃。そして中国はアメリカ本土にある基地を大陸間弾道ミサイルICBMで攻撃し、合わせて24発の核兵器が使われるとしています。
日本、韓国、中国、アメリカなどで犠牲者の数は数か月間に260万人と甚大となり、長期的にはがんで最大83万人が亡くなるとしています。
プロジェクトチームは数字ではなく、1人1人の人が亡くなることを理解してほしいとしています。

【核使用 偶発的に起きるケースも】
また、シミュレーションでは、核兵器が偶発的に使用されることもありえるとしています。

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たとえば「ロシアの潜水艦がアメリカの演習などを、攻撃を受けたと勘違いして攻撃するケース」や「ロシアの警戒システムに通信障害が起き、韓国のロケット実験を核攻撃と誤認して、在韓米軍の基地を攻撃するケース」などを挙げています。

実際、1983年には、ソビエトの監視システムがアメリカからミサイルが発射されたと誤作動したことがありました。当時、警戒中の中佐はミサイルの数が少なく、誤作動の可能性があると考えて上官に報告せず、核攻撃に至らなかったということです。このとき核攻撃は避けられましたが、偶発的な核使用はありえないことではありません。

プロジェクトの中心メンバーで、長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授は「敵対する国どうしの誤解やコミュニケーションの不足で核兵器を使用することは起こりうる。1発でも使用されれば甚大な被害が出ることは避けられない。核保有国の指導者たちは核が使用されるリスクを直視し、核抑止に頼る安全保障のあり方を見直してもらいたい」と話しています。

【強まる核抑止論 脱却を求める被爆地】。
いま、安全保障環境が厳しいとして、冷戦期のように核抑止論が多く聞かれるようになっています。

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5月のG7広島サミットでまとめられた「広島ビジョン」でも、核兵器のない世界に向け、核軍縮の重要性は強調された一方で、「核兵器は存在するかぎり、防衛目的のために役割を果たすべき」と、核抑止を前提とする考えが示されました。
被爆地は、核抑止の考え方が強まっていることを危惧しています。
長崎の平和宣言でも「核抑止力に依存していては核兵器のない世界を実現することはできません」としたうえで「今こそ、核抑止への依存からの脱却を勇気を持って決断すべきです」と訴えました。

核抑止は、核保有国のリーダーが「核兵器を使うと、破滅的な状況に至る恐れがあるため、使わない」という正常な判断ができることが前提となっています。
いまの世界の状況をみて、この前提はどれだけ保たれているでしょうか。

【被爆者の思い 反映を】
78年前に投下された原爆では、その年だけで広島では14万人、長崎では7万人が亡くなりました。その後も多くの被爆者が亡くなり、いまも後遺障害に苦しんでいる人がいます。

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広島の被爆者で、世界各地で核廃絶を訴えてきたサーロー節子さんは、姉や4歳だったおいを始め、親族8人を亡くし、同じ女学校の同窓生351人が亡くなりました。
13歳で、多くの人が荼毘に付される様子を目にして、極限状態で涙さえ出なくなり、感情をなくしたと語っています。
サーローさんは、その経験を常に胸に抱きながら91歳のいまも、痛む体をおして核廃絶を訴え続けていて、最近も私たちに対し、「『もう二度とこういうことを繰り返させない』こと、それを死者に代わって実現するまで言い続ける。強い責任感があるからこそ、立ち上がって続けているんだと思います」と語りました。

こうした被爆者の思いをどう反映させていくのか。

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今年11月には国連本部で、核兵器禁止条約の2回目の締約国会議が開かれます。
日本は条約に参加しておらず、去年、第1回目の会議には「核保有国が加わっておらず、現実的な取り組みを進めるのは難しい」などとして、オブザーバーとしても参加しませんでした。ところが、日本と同様にアメリカの核の傘のもとにあるドイツなどは、第1回の会議にオブザーバー参加し、「核なき世界という目標は共有している。対話と議論を続けたい」などと意見を述べました。
日本政府は、国内外の有識者が議論する会議を開くなどして、核保有国と核兵器を持たない国の橋渡し役を担うとしていますが、被爆者の目からは「できていない」と見えています。ドイツのようにオブザーバー参加を検討する必要があると思います。

【原爆の惨禍 忘却せず想像を】

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長崎の平和宣言では、原爆の熱線で背中一面に大やけどを負い、痛みと闘いながら、6年前、88歳で亡くなるまで核廃絶を訴え続けた谷口稜曄さんのことばが紹介されました。
谷口さんは「過去の苦しみなどが忘れられつつあるように見えます。忘却が新しい原爆肯定に流れていくことを恐れます」と、今の状況を予見するかのような内容を話していたということです。
そのうえで、平和宣言では「『78年前に原子雲の下で人間に何が起こったのか』という原点に立ち返り、『今、核戦争が始まったら、地球に、人類にどんなことが起きるのか』という根源的な問いに向き合うべき」だと訴えました。

核廃絶を願ってきた被爆者の平均年齢は今年、85歳を超えました。
あの惨状を繰り返さないために、核兵器使用のハードルが下がってきているように見えるいまこそ、高齢の被爆者や被爆地の思いをどう受け止めるか、考えてほしいと思います。

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